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CINEMAバリQ

【西遊記 ~はじまりのはじまり~】
バカバカしい笑いと教えがあるチャウ・シンチー作品

西遊記 ~はじまりのはじまり~ 映画あらすじ

一人前の妖怪ハンターになるため修行の旅をする青年・玄奘は、川で魚のような妖怪に手こずっていたところを、美しく男勝りな妖怪賞金稼ぎ・段に救われる。その強さと手際の良さに比べて自分が不甲斐なく、救えなかった人々もいたことで玄奘は落ち込むが、師匠に促され再び修行の旅に出る。だが、その先々で妖怪に立ち向かうものの、まったく歯が立たない。そしてなぜか、美しき賞金稼ぎ・段にもその都度出会ってしまうのであった。そんな彼らを待ち受けていたのは、もっとも恐ろしい力を持つ妖怪だった。

西遊記 ~はじまりのはじまり~ 映画レビュー

『少林サッカー(2001)』や『カンフーハッスル(2004)』を観てから、ずっとチャウ・シンチーのファンなので、この映画も大船に乗ったつもりで鑑賞。バカバカしい笑いに肩を揺らし、不器用な愛に涙して、とてもシンプルな悟りの言葉に感心した。日本では前の2作品ほど話題に上らなかったけれど、自分はこの作品を心から楽しむことができた。

監禁された妖怪ハンターが漏れそうな時のやり取りとか、不可抗力で踊らされたセクシーダンスとか、師匠のズラとか食い逃げとか、止まらない小道具の血しぶきとか、顔がやたらテカテカなイケメン妖怪とか、空虚王子とオバハンたちとの無駄な会話とか、バナナのくだりや、トゲトゲ果物のくだりとか、本当にどうでもいい笑いがたまらなく好みだった。そして、チャウ・シンチー監督の映画で描かれ続けている「教え」にも興味が湧いた。

チャウ・シンチー監督はよく、「要」となるシーンで仏様の“大きな手”を描く。その表現は、太刀打ちできないほどのパワーを見せつけるにはうってつけだ。

その“大きな手”は、カンフーハッスルの場合、如来神掌という武術によるものだった。

今作品『西遊記 ~はじまりのはじまり~』においては、大日如来(だいにちにょらい)様の手そのものだ。そして、いずれの場合も主人公が悟りをひらいたあとに現れる。

ちなみに、如来様が手をあげて、手のひらを見せているかたちは施無畏印(せむいいん)といい、「恐れなくてよい」と相手をリラックスさせる意味があるようだ。だが映画では、悪党を無限大の力でねじ伏せて、無力にするために登場する。ただし、そのあとには、どんなに残虐な悪党や妖怪にも必ず慈悲を与えている。「学びたければ教えよう」は、『カンフーハッスル(2004)』のなかで、強く印象を残したセリフ。

少林サッカーではクライマックスで、火星人的スキンヘッドになった娘が、太陰大極図(火鍋の形のようなやつ)を浮き上がらせゴールを守っていた。映画では天と地、静と動、光と陰など、全ての要素をかき集めて最強になったイメージだが、この太陰大極図は、「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる」という教えの通り、光と影が常にくっつき循環していることを示している。

絶好調のあとには必ず試練が訪れ、苦しみのあとには必ず喜びがあるという感じだろうか。ちなみに、これは道教の教えらしいが、「幸せと不幸せは一緒に旅しているので、どちらかだけを受けるわけにはいかない」という、仏の教えにも似ている。

そんなことから考察するとチャウ・シンチー監督は、宗教の種類うんぬんではなく、それぞれの「教え」がもつ力を信じているように思われた。それは、まったくの無宗教だが、天からの視線を感じ、それぞれの教えや言葉が自分の心に及んだ時、その力を信じる筆者にとって、とても馴染みやすい印象がある。

今作品に登場する大日如来(だいにちにょらい)の大日とは、太陽をはるかに上回る光のことらしい。万物を慈悲深い光で照らす大日如来は、宇宙そのものとも捉えられるのだとか。まさしくそんな表現が、この映画のなかにもある。

どんだけ無限大やねんと突っ込みたくなったが、悟りの境地に達した人物がもたらすものが、生半可な迫力だと拍子抜けしてしまう。その点、チャウ・シンチー監督作品では、肝心要のところで最大限のパワーを見せてくれるので安心だ。

今回監督自身が出演しておらず残念だが、台湾人女優のスー・チーが相変わらずナイスバディでかわいかったので良しとしよう。彼女の千葉真一さん物真似風な動きや、わらべ歌の本が最終的に発揮する力とその成り立ち、Gメンのテーマ曲にも大満足だ。ただ、「足じい」の強さだけは、自分にはまったく伝わらんかった……。

 

ライター中山陽子でした。

 

西遊記 ~はじまりのはじまり~(2013)

監督 チャウ・シンチー
出演者 ウェン・ジャン/スー・チー/ホアン・ボー/ショウ・ルオ

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