【ロープ 戦場の生命線】
ベニチオ・デル・トロ主演・紛争地帯の不条理を描いたスペイン発のブラック・コメディ
必要なのは、たった1本のロープ――「ロープ 戦場の生命線」
【あらすじ】
時は1995年。場所は停戦直後のバルカン半島。ある村の井戸に、大きな男の死体が浮かんでいた。このままでは地域住民の生活用水が汚染されてしまう。そこで、国際色豊かな「国境なき水と衛生管理団」は、その死体を引き上げるため、たった1本のロープを求めてさまようことに。しかし、そこは武装集団がウロウロし、地雷が点在して、しばしば道路に謎の罠が仕掛けられているような危険地帯。さらに、恋愛関係のもつれや、途中で出会った少年の悲しい生い立ちが、彼らをますます困惑させ……。
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それは紛争地帯のありふれた風景――「ロープ 戦場の生命線」
【レビュー】
内戦や紛争、自然災害などで困っている人々に寄り添い、自らの危険を顧みず活動を続ける国際援助活動家たちを、「真のヒーロー」としてユーモアたっぷりに描いた作品です。
物語のなかで起こっていること自体はとても悲惨で、そのまま受け止めると気分が落ち込んでしまいそうですが、とても穏やかな気持ちで観ることができます。
その理由は、監督を務めたフェルナンド・レオン・デ・アラノアさんが、戦争の悲惨さを感傷的に表現するのではなく、登場人物の揺るぎない信念に焦点を当て、ときには笑いもこぼしながら温かく描いてくれたから。
最後のほうで聞こえてくる歌は、世界でもっとも有名な反戦歌ともいわれる「Where Have All The Flowers Gone(花はどこへ行った)」。アメリカンフォークの父と呼ばれるピート・シーガーさんが作ったものですが、本作ではなんとバート・バカラック氏が編曲し、マレーネ・ディートリッヒさんがカバーしたものを流しています。
しかも、そのとき映像では、驚くべき(明るい)事態が起こっているという粋な計らいが……。
それに加え――
ティム・ロビンスさんの秀逸な演技、オルガ・キュリレンコさんの目を見張るような美しさ、マシュマロみたいにホンワカかわいいメラニー・ティエリーさん、そして卓抜な演技はもちろんのこと、久々に可愛い(?)キャラクターを演じてくれたベニチオ・デル・トロさんの、萌えずにはいられない姿が、この映画をとことん魅力的にしてくれました。
しかし、もっとも素晴らしかったのは、「牛追いのおばあちゃん」だったような気もします。
【登場人物と出演者】
プエルトリコ生まれのマンブルゥはベテランの国際援助活動家。「国境なき水と衛生管理団」のリーダーです。淡々と仕事をこなしているようでいて、実は熱い心の持ち主。女性にはずいぶんモテている様子です。この役を演じた ベニチオ・デル・トロさんファンとしては、久々に“渋い”ではなく“お茶目”な役柄なので、ハッキリ申し上げて「ただひたすら萌えます」。
同じくベテラン国際援助活動家のアメリカ人“ビー”は、「国境なき水と衛生管理団」のムードメーカー。やたら先輩風を吹かせるし、愚痴をこぼすし、適当そうですが、実は高い洞察力の持ち主で、強い信念があり、マンブルゥの理解者でもあります。マンブルゥが、誰よりも信頼する存在かもしれません。演じたのはティム・ロビンスさん。
この映画を知ったとき、 ベニチオ・デル・トロさん主演というだけでも鑑賞意欲がドカンと跳ね上がったのに、いつも素晴らしい演技で魅了してくれるティム・ロビンスさん共演と知り、ますます観る意欲が高まりました。
おまけに、この映画には、違ったタイプの美女が2人登場します。
ひとりは、ロシア人の調査員カティヤ。ビーが彼女を見たとき、「国境なきモデルか?」といったり、彼女を車で迎えに行った関係者が「彼女に会ったら、ここが紛争地であることを忘れた」とか何とかいっていたので、見た目通り「誰もがウットリしてしまう美人キャラ」です。演じたのは、オルガ・キュリレンコさん。確かに、こんな人がウロウロしていたら男も女も落ち着きません。
そして、軍のカンファレンスでもまったく物怖じせず(っていうか空気を読まず)、意見をバシバシいってしまう新人国際援助活動家のソフィーはフランス人。雪見大福かマシュマロ並みに、白くてやわらかそうなのに、見た目に反してアグレッシブです。井戸での捨て台詞は最高でした。演じたのは、30代になってもジュゼッペ・トルナトーレ監督の『海の上のピアニスト(1999)』で演じた、「少女」の印象が強いメラニー・ティエリーさん。
現地人通訳のダミールは、このメンバーのなかでもっとも思慮深く、穏やかな性格です。演じたフェジャ・ストゥカンさんは、旧ユーゴスラビアのサラエボに生まれなのだそう。遠くを見る目に、悲しみと優しさ、そして困惑と達観が入り混じる、何だか魅力的な方です。今回の作品ではずっとロン毛ですが、短髪にするとまたグッと印象が違う男前になりますよ。
【結論】
この映画の原作を著したのは、「国境なき医師団」所属する医師で、スペイン人作家のパウラ・ファリス氏。小説の名前は『Dejarse Llover(雨を降らせて)』、映画の現題は『A Perfect Day』です。
わたしたちにとって「驚愕の現場」が、「紛争地帯のありふれた日常」であることを、今日もどこかで武器を持たずに戦う「真の英雄」たちが存在することを、しかと目に入れなさいと、優しくバックグラウンドでささやきかけるブラック・コメディであり、188 cmのベニチオ・デル・トロさんが、196 cmのティム・ロビンスさんや、191cmのフェジャ・ストゥカンさんに囲まれ、なぜか小さく見える「目の錯覚状態」も味わえる映画です。
ライター中山陽子でした。
ロープ 戦場の生命線(2015)
監督 フェルナンド・レオン・デ・アラノア
出演者 ベニチオ・デル・トロ/ティム・ロビンス/オルガ・キュリレンコ/メラニー・ティエリー