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CINEMAバリQ

【TENET テネット】
何度も観ると面白くなる物理学的SF映画かつ壮大な友情物語

時間をさかのぼって第三次世界大戦を防げ!?

【あらすじ】

ある特殊な作戦に参加していた「名もなき男」は、敵に捕えられた際に機密情報を守るため、自ら毒薬カプセルを飲む。しかし船の上で目覚め、カプセルが睡眠薬にすり替えられていたことを知る。その船にいた「謎の男」は、「名もなき男」にTENET(テネット)というキーワードと「第三次世界大戦を防げ」というミッションを与える。

物理学者もハマるSF映画

【レビュー】

「エントロピー」という言葉は“無秩序さ”を表す指標なのだとか。だから、たとえばいろんな色のガムが入った容器をひっくり返すと、ガムがバラバラになってテーブルの上に広がりますが、それを物理学的に言うと「エントロピーが増大した」と言うのだそうです。私たちがごく普通のものとして感じている「時間の流れ」のことでもあります。

しかし、この映画のなかで語られている未来人は、エントロピーが減少する装置(物質?)をつくり出してしまいました。つまり、時間が逆行するわけです。しかし、実際に時間を逆向している人にとっては、それが普通の時間の流れとして感じられます。

つまり、時間を「順行」している人から見ると「逆行している人は逆戻り」の動きをしているように見えますが、「逆行」している人から見ると「順行している人が逆戻り」をしているように見えます。ぅがッ! ややこしいッ!

と、このように、物理学のエッセンスが満載の『TENET(2020)』を最初観たときは、何がなんだかサッパリわかりませんでした。しかし、「名もなき男」のセリフと少し悲しそうな顔が気になって2回目を鑑賞したわけです。そこで壮大な計画と友情に気がつき、3回目の鑑賞を終えて、すっかりこの映画のファンになってしまいました。

同じくクリストファー・ノーラン監督作品である『インターステラー(2014)』同様に、噛めば噛むほど味が出るスルメイカのごとく、観れば観るほど好きになり、ワクワク感が増大します。特筆すべき共通点は、いずれも難解ながら、観る回数を重ねれば素人だって楽しめる物理学的なおもしろさがあり(完全理解できるわけではないが)、不器用に描かれている「友情」や「愛情」で心が潤うことです。

インターステラー(2014)』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めた、ノーベル物理学賞受賞者でもあるキップ・ステファン・ソーン氏は、この作品でも時間と量子力学について相談を受けたといいます。日本語字幕については、東京工業大学理学院助教の山崎詩郎氏が監修したとのこと。

こうした骨格をもつ作品だからこそ、「なんだこれ、さっぱりわからねー」と初鑑賞で離れていく観客を決して恐れません(たぶん)。筆者のようにハマってしまう人も多いのではないでしょうか。

【登場人物と出演者】

ジョン・デヴィッド・ワシントンさん演じる「名もなき男」は元CIAの工作員。強い精神力と工作員としての高い能力を買われTENETメンバーに勧誘されましたが、秘密や嘘が折り重なっている状況ゆえ、途中までは戸惑いながらの任務遂行です。工作員ながら情に厚い男であることが節々ににじみ出ているナイスガイ。でも、キャラクターとしては『ブラック・クランズマン(2018)』のほうがジョンさんにはシックリきていたかも? いずれにせよ、最近の活躍にはパパ(デンゼル・ワシントン氏)も鼻高々ですね。

ロバート・パティンソンさん演じるニールは、筆者が一番気に入っているキャラクター。いつでもどこでも「名もなき男」を助けまくっている人物です。インテリで機転が利いてとても優秀で、それでいて人当たりがよく、しかも義理堅い。もう、友人としては最高じゃないですか。そもそも主要な人物ですが、「ニールは何者だ?」といった議論のなかでは、より重要な存在として語られています。

エリザベス・デビッキさん演じるキャット(キャサリン・バートン)は、悪名高きセイターの妻。いい家柄出身かつ金持ち相手に仕事をしている役柄であるからか、背が大きいからなのかわかりませんが、悲観に暮れている役柄なのに、なぜかいつも偉そうです。あ、そういえば、米英共同制作のドラマ『ナイト・マネジャー』でも悪い武器商人の愛人で、同じく小さなかわいい息子がいる役柄でしたね。そのときは“偉そうキャラ”ではありませんでした。

ケネス・ブラナーさん演じるアンドレイ・セイターは、未来と接点がある武器商人であり、キャットの夫でもある人物。絶大な経済力と影響力を未来人から与えられた代償に、重要なものを徐々に失っています。ほんの少しだけ、誰かを愛する気持ちは残っていたような……。それとも単に女に弱いだけか。 そういえば、『エージェント:ライアン(2014)』でもそんな役でした(しかも同じくロシア人役。実際はアイルランド出身なのに)。

【結論】

最初は頭がごちゃ混ぜになりますが、何度も観ると「なるほど感」が増してきます。役者さんも特殊な動作の演技が大変だったとか。物理学的なSFと、壮大な友情物語をぜひ堪能してみてください。

ライター中山陽子でした。

TENET テネット(2020)

監督 クリストファー・ノーラン
出演者 ジョン・デヴィッド・ワシントン/ロバート・パティンソン/エリザベス・デビッキ/ケネス・ブラナー