【レベル・リッジ】
「鉄の精神」と「非暴力的戦術」と「ヘーゼルアイ」が実現。“澄んだアクション映画” 爆誕!? ※ネタバレあり
『レベル・リッジ』あらすじ
それを取り返そうにも、悪徳警官たちは先々で妨害工作を仕掛けてくる始末。その田舎町にはびこる腐敗が、かなり根深いものであることに気づく。
裁判所職員のサマーという唯一の仲間を得て、テリーは孤独で過酷な戦いを始める。
『レベル・リッジ』レビュー※ネタバレします!
● 腐敗した警官らに立ち向かう「ムキムキ僧侶」
勝手にたとえるなら、この映画は悪徳警官と、神秘的な瞳をもつ「ムキムキ僧侶」との、静かなる社会派アクション・スリラー映画です。
まず、映画冒頭から釘付けになるのは、主役のテリーを演じたアーロン・ピエールさんの目の色ではないでしょうか。その、吸い込まれそうなほど美しいグリーン系もしくはブラウン系の神秘的な瞳は、ヘーゼルアイと呼ばれるそうですね。
「とりあえず美しい瞳に吸い込まれちゃおうかしら」と思った矢先、腐れ警官の魔の手が伸びてきてしまいます。
アメリカでは、警察が「犯罪に関係ありそうだ」と疑えば、その現金や財産を押収・没収できる制度があるといいます(民事資産没収)。
もちろん、その判断が正しい場合もあるかもしれませんが、何もしていないのにそのような状況に追い込まれる場合も少なくありません。裁判費用を考えると泣き寝入りする人も多いので、結局は警察の財源にされてしまうそうです。
ちなみに、アメリカの地方警察の予算は、そのほとんどが自治体の税金で賄われており、特に映画のなかのような田舎町の警察署では、「資金難」が常態化している場合が多いといいます。
だからといって、親族の命をつなぐためのお金を取られたらたまったもんじゃありません。それに、映画のなかの警官たちは、明らかに法を犯しています。
そんな腐れ警官とは対照的に、テリーはどんな極限状態でも、鉄の精神で、 正しく、 控えめに、 そして冷静に、 対処しようとします。その姿はもはやムキムキ僧侶。
「このひとなら何かしてくれそうだ」という期待は、鑑賞し始めて時間が経つほど強まっていきます。
● 近接格闘術「MCMAP」で独特なアクションシーンに
この映画の見せ場のひとつに、「署長、そいつから離れてください!」と悪徳警官が、悪徳署長に叫ぶシーンがあります(悪徳署長を演じるのはドン・ジョンソンさん)。
“そいつ” とはテリーのこと。なんせ、悪徳署長はテリーのことを、実戦経験がない元海兵隊員だとたかをくくっていたので、思いっきり近づいていましたからね。
しかし、テリーはアメリカ海兵隊の近接格闘術MCMAP(Marine Corps Martial Arts Program)の元教官。接近戦は得意中の得意なわけですよ。Wikiにも名前が載る有名人です。
「じつは、スゲー強いやつだった」という筆者の大好物だったわけですが、この映画は、その手の映画(「Mr.ノーバディ」や「イコライザー」など)とは、だいぶ趣が違います。
なぜなら、MCMAPの目的は暴力ではなく、防衛しながら相手を無効化(制圧)することだから。多少はボッキリ折ったり、ボコボコにしたりしますが、基本的には必要最小限の武力で、段階的に相手を制圧するスタンスを徹底しているそうです。
で、この近接格闘術を初めて披露する直前のテリーさんがカッコよかったですねぇ。悪徳署長に、軍で培った「P-A-C-E」を、自分に起こった出来事で一文字ずつ説くシーンです。「P-A-C-E」とは、以下の段階的な予備計画のこと。
- P(Primary / プライマリ): 最優先の手段(テリーの出来事で言えば、町へ現金を持っていく本来の目的)
- A(Alternate / オルタネイト): 代替手段(交渉などによる解決)
- C(Contingency / コンティンジェンシー): 不測の事態への予備手段(トラブル発生時の対応)
- E(Emergency / エマージェンシー): すべての手段が尽きたときの緊急事態、すなわち実力行使や戦闘状態。
で、最後にEを説明したあと、グッと大きな手で署長の銃を抑えたときには、鑑賞していた筆者のアドレナリンも全開になりました。
● 静かなるモンヤリ「勝利」は持続性のある満足感に変わる?
じつは、この映画を観たのは3回。つまり、すごく気に入ったわけなんですが——最初から、この作品に満足していたわけではありません。
なんというか、テリーが何度も警察署を行ったり来たりする部分とか、町を出て舞い戻ってからクライマックスまでが長いとか、最後に勝利したはしたが多少「モンヤリ」しているとか、そもそもテリーとサマーの危機管理が甘いとか、冗長で締まりがないように感じてしまったのです。
「MCMAP」という独特なアクションシーンもその要因のひとつ。アメリカ海兵隊で実際に使われている格闘術なだけに、「すごいな」と感じる部分も大きいのですが、なんとなく「ゴロゴロでんぐり返り作戦」にも見えなくもない。
終盤の最大のアクションシーンも、発煙筒による濃い煙で視界を奪いながら「MCMAP」を駆使していましたが、スカッとした爽快感はありません。
でも、しかし——
後を引く酒のつまみのごとく(たとえが悪い)、鑑賞したあと、不思議とまた観たくなる謎の引力がありました。
まず、「テリー」というキャラクターは非常に魅力的ですし、テリーの正体を知った悪徳警官の表情が見ものですし(ここはスカッとする)、最後、敵が味方に変わり「おっ」と思わせるところも意外と “小気味よさ” を感じるからです。
なので、「なんかスッキリせんな」と鑑賞後に感じても、もしかしたら、その後、ジワジワと印象が変わることがあるかもしれません。
続編ができることに期待です。
(ライターgatto)
『レベル・リッジ』(2024)
監督:ジェレミー・ソルニエ
出演者:アーロン・ピエール , ドン・ジョンソン , アナソフィア・ロブ , デヴィッド・デンマン


