【ゾンビーズ】
ポップにキラキラに、多様性を尊重するディズニーの青春ミュージカル
ゾンビとチアリーダーが恋に落ちる「ゾンビーズ」
【あらすじ】
シーブルックは、人々が規則正しく美しく暮らす町。だが、かつては発電所の事故で一部の住民がゾンビになってしまい、混乱に陥っていた時期がある。それから50年が経った現在、リストバンド型の理性コントロール装置「Zバンド」が開発され、ゾンビは人間と同じような生活価値観を持つようになっていた。しかし、ゾンビへの偏見は一向になくならず、「シーブルック」と「ゾンビランド」の環境は大きく異なっていた。そんななか、ゾンビタウンの高校生がシーブルックの高校へ転校することに。アメフト選手になることを夢見るゾンビのゼッドは、チアリーダーのアディソンと出会い恋に落ちる。
この映画の買い取り価格→→→ 『ゾンビーズ』
カラフル&ポップに多様性の受容を問いかけた「ゾンビーズ」
【レビュー】
とにかく映像が色鮮やかで、みーんなキラキラ。おまけに主役がアメフト部のスター選手で、ヒロインがチアリーダーの金髪美女。そして、品行方正なディズニーの、筆者がチョッピリ苦手な青春ミュージカル。
これだけでは、とても観る意欲がわかなかったテレビ映画ですが、この作品の場合はタイトル通りゾンビが登場するので、食わず嫌いをやめて鑑賞してみました。
すると、想像以上に社会的なメッセージが強くてビックリ!
冒頭で、ゾンビの高校生ゼッドが『フェリスはある朝突然に(1986)』のごとく観客に話しかけてきた時点では、「お子ちゃま映画」だと高をくくっていました。しかし、「明るく綺麗で万全」と「暗く汚く不芳」に分けられた高校への入り口や教室を目にして、すぐにアメリカの人種差別が色濃い時代をイメージさせられたわけです。また、本人や周囲がひた隠す、“人とは違う”アディソンの髪の毛は、マイノリティを示していると感じました。
ゼッドやアディソンは途中まで、本来の自分を隠し、皆と同じにしてさえいれば、万事うまくいくと考えます。しかし、やがて変わるべきなのは周囲の意識だと悟るのです。
「バニラ……、バニラ……、これもバニラ……」
自分を偽ったゼッドとアディソンが「普通のデート」を楽しんだカフェでは、こんな風にメニューを読み上げながら、暗に多様性ゼロの社会を揶揄しています。「なんだ、こんなにメッセージ性の強い青春ミュージカルだったのか」と思っていたら、そういえば、そもそもチアリーダー部に男性がいたり、ステレオタイプなチアリーダー部においてはあまり登場しない“ふっくら系”の女子がいたりと、何気にダイバーシティ。
観始めたらすぐにラストが想像できるようなストーリー展開であり、「お前ら、いったいいつダンスを練習したんだ」と突っ込みたくなるご都合主義ではありますが、単にハンサムなゾンビと、かわいい人間女子のキラキラした恋愛だけを描いただけのものでないことは確かです。
【登場人物と出演者】
ゼッドは、ハンサムで前向きなゾンビの男の子。アメフト部の選手として活躍するために、ちょっとした操作をしますが、すべては人権ならず「ゾンビ権」を勝ち取るため。基本的にはとても真面目な青年です。シーブルック高校に転校してきた当日、人間のアディソンに一目ぼれしてしまいます。演じるのはヒョロっと背が高く、たれ目の優しい顔をしたマイロ・マンハイム君。
アディソンは、チアリーダーを夢見るキラキラの女の子。でも実は、髪の毛の色が人と違うため、金髪のウィッグで隠しています。誠実で優しく、大らかなゼッドの人柄(ゾンビ柄?)に触れ恋をします。演じるのは、メグ・ドネリーちゃん。チアのユニフォームが抜群に似合います。
イライザは、頭が良くてITに強い、クールでスマートなゾンビの女の子。文句をいいながらも友人のゼッドをサポートする、本当は心の優しい女性です。しかし、人間のゾンビに対する態度・扱いに不満を募らせており、爆発寸前に……。演じるのは、カイリー・ラッセルちゃん。ちょっと冷めたキャラクターを演じますが、笑うとキュートです。
ボンゾはゼッドとイライザの友人。3人のなかでは唯一ゾンビ語を話す、音楽やアートに夢中な心優しきゾンビ君。最初はアディソンに冷たかったイライザとは違い、初めからアディソンを優しく受け入れます。男女問わずギュッとハグして友情を示すクセあり。演じるのはジェームズ・ゴッドフリー君。ゾンビメイクをとったら、背の高い(2mとか)イケメンだと思う。
バッキーは、アディソンのいとこで、自意識過剰なシーブルック・チアリーダー部のキャプテン。もともとゾンビが嫌いで、学園の人気者であることを自負していたので、アメフトのスター選手となり、アディソンまで虜にしてしまったゼッドに、強く嫉妬します。演じるのは、トレヴァー・トージマン君。「僕はスターのバッキーだよ」的な笑顔を惜しげもなく披露してくれます。
ブリーは、アディソンの親友。ふっくらとした、とても人柄のいい女の子です。チアリーダーのトップを夢見る彼女は必死に頑張りますが、自分のことよりも人のために行動する性格なので、夢の実現が危ぶまれることに……。でも、ディズニー映画だから大丈夫。善人には、いいことが起こるんです。
【結論】
濃厚なこってりキスも、フレンチキスもありません。あるのはカラフルな映像と、ポップで力強い歌とダンス。そして、多様性の受容を訴える強いメッセージです。ゾンビほか、さまざまな人が踊るラストシーンで、観客はその理想的な世界を目撃するでしょう。もちろん、この映画のゾンビは脳みそを食いません。脳みそ風カリフラワーのみです。(でも、やっぱり「Zバンド」が故障したら人間襲うよなあ……)
ライター中山陽子でした。
ゾンビーズ(2018)
監督 ポール・ホーエン
出演者 マイロ・マンハイム/メグ・ドネリー/カイリー・ラッセル/ジェームズ・ゴッドフリー