【ヒットマンズ・レクイエム】
ブラックユーモア満載な心に沁みるクライムムービー
切なく笑える殺し屋たちの人生「ヒットマンズ・レクイエム」
【あらすじ】
ボスのハリーから、しばらくベルギーの古都ブルージェで待機するよう命令を受けたケンとレイ。ベテランの殺し屋であるケンは、ゆったりと読書を楽しんだり、中世の面影を残した町を散策したりで、余暇とベルギーを満喫していた。しかし、まだ若く、初仕事で失敗した駆け出しの殺し屋レイは、退屈だと悪態をついてばかり。そんななか、レイは地元の魅力的な女性クロエと出会い……。
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演技力が高すぎてジンワリしてしまう「ヒットマンズ・レクイエム」
【レビュー】
皮肉っぽいブラックなユーモアで笑わせておいて、俳優陣の卓抜した演技で感動させてしまう、不思議な映画でした。登場人物はほとんど犯罪者なのに、誰もかれも憎めない連中ばかり。それぞれに人間らしさがあり、情があり、信念があり、ときに愛があります。もちろん狂気もありますが。
ものすごく緊迫したシーンで、「プッ」と笑わせてくれるあたり、さすがはマーティン・マクドナー監督という印象です。記憶に新しいのは、『スリー・ビルボード(2017)』の監督・脚本、プロデューサーを務め、世界的に高く評価されたこと。こちらもサスペンスでありながら、ブラックコメディの要素があり、少しだけ泣かせてくれました。でも、より多く笑わせてくれたのは、『ヒットマンズ・レクイエム』のほうかもしれません。
ヘンテコリンな殺し屋たちの苦悩や信念に、思わず感情移入し、陰鬱かつ幻想的に映したベルギーの古都ブルージェの町並みと、悲し気な音楽が、頭に残ってしばらく離れませんでした。
ゴチャゴチャと個性豊かなヒットマンが登場し、バカなブラックユーモアで血生臭く笑わせて終わるのかと思いきや、とてつもなく人間臭い静かなドラマです。あ、コメディか。ラストシーンには、それも忘れてしまうほど。
眉をしかめたくなるシーンや、差別的な表現も多々ありますが、殺し屋というキャラクターを使って人間の良心や生への関心を描いています。もちろん、そこはマクドナー監督らしく皮肉たっぷりに。
【登場人物と出演者】
新米の殺し屋レイを演じたのはコリン・ファレルさん。凛々しい眉毛を常にㇵの字にして、ウンザリしたり、苦悩したりしている様子を演じます。お菓子をねだる駄々っ子ような、キレやすい若造の殺し屋ですが、ある部分の良心は失っていません。ファレルさんは、この作品で第66回ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で主演男優賞を受賞しました。
そんなレイに手を焼くベテランの殺し屋ケンを演じるのは、個人的にはもっとも演技が秀逸だと感じたブレンダン・グリーソンさん。このケンとレイの関係には、親子のような温かみがありました。終盤、泣かせてくれたのは、この2人のやり取りにほかなりません。また、ケンがボスであるハリーに対して堂々と真意を述べるシーンでは、グリーソンさんの演技に感服いたしました。
その親分ハリーを演じたのは、やはり常に安定した演技力を見せてくれるレイフ・ファインズさん。ケンからの言葉で生じた複雑な感情を、微妙な表情の変化だけで示す凄ワザの持ち主です。キレやすくて危ないボスのようでいて、ケンが言うとおり筋を通す男でした。電話でのクドい会話には笑わせられます。
レイと恋に落ちるのは、ベルギー娘のクロエ。ちょっと危ない雰囲気を持つ小悪魔ですが、とてもキュートな女性です。演じるのはフランス人女優のクレマンス・ポエジーさん。泣き叫ぶ表情がとても真に迫っていました。カフェでレイとイチャイチャしているシーンも、本当につきあっているかのようにとても自然。後者はなかなか日本人の俳優さんには出せない雰囲気かもしれません。
なお、今作ではコリン・ファレルさんが第66回ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で主演男優賞を受賞したほか、ブレンダン・グリーソンさんも主演男優賞にノミネートされており、作品賞にもノミネートされています。また、第81回アカデミー賞の脚本賞にもノミネートされたほか、第62回英国アカデミー賞でも数々のノミネートや受賞を受けています。
【結論】
この映画は、不思議な雰囲気で殺し屋たちの苦悩と葛藤、そして「生」を描く、B級ではないブラックコメディです。選り好みされそうですが、個人的には価値ある作品でした。ちなみに、メインキャラクターを演じている俳優さんたちはみな、『ハリー・ポッター』関連の映画に出ています。
ライター中山陽子でした。
ヒットマンズ・レクイエム(2008)
監督 マーティン・マクドナー
出演者 コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/レイフ・ファインズ/クレマンス・ポエジー